強引専務の身代わりフィアンセ
 夜の交流会に向けて、ドレスに着替えて化粧を済ませた頃に一樹さんは戻ってきた。

「おかえりなさい、桐生さんに会えましたか?」

 小さな紙袋を持って帰ってきた彼に笑顔で話しかける。

「ああ、美和にもよろしく伝えてくれって」

「お気遣いありがとうございます」

 そこで、彼の視線がじっとこちらを向いたので私は一瞬だけたじろいだ。すると、一樹さんはふっと気の抜けた笑みを浮かべてくれる。

「美和にはそっちの方がよく似合ってるな」

「……お言葉に甘えて、青を着ちゃいました」

 平常心!と言い聞かせ、私は笑った。昨日の赤色のドレスとは対照的に、今日はブルーのドレスに身を包んでいる。

 個人的に好みなのは青なので、彼の言葉が、どうもくすぐったい。けれど、こうして褒めてくれるのも私が婚約者だからだ。

 一樹さんは椅子に腰かけると、ジャケットを脱いでネクタイを緩める。その仕草にいちいち目を奪われてしまうが、私は後ろから近づき、上着を受け取ることにした。

「少し休まれてはどうですか?」

「そうだな」

 手を差し出すと、素直にジャケットが渡されたので、ハンガーにかけておくことにする。

「私はその間、髪をしておきますね」

 こういうとき、男性と女性の準備にかける時間と手間の差がありすぎると心底思う。そこまで支度に時間をかける方ではないけど、彼の婚約者としては念入りに準備しなくては。

 ちょっと寝てしまったのもあるし、もう一回ヘアアイロンをしておこう、と自分の髪先に目をやったときだった。
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