強引専務の身代わりフィアンセ
 本当なら、代役の美弥さんを意識した格好の方がいいのに。依頼者の意向とはいえ、そう勧めるべきだった。

 どうしよう。私らしくない。

 ドレッサーの前に座って、しばらく鏡の中の自分と格闘する。ストレートか、巻くべきか。悩みながらも、最終的に私はアイロンで髪をおとなしく巻いていくことにした。

 依頼者である彼の希望だし、と言い訳しつつ、どうしたって私情が入ってる。やっぱり嬉しかった、私自身を見てくれた気がして。

 それが気のせいだとしても、彼の言う通り、今は私が婚約者だから気を遣ってくれたのだとしても、どんな理由でもこの際かまわない。

 だって、彼の思惑がどうであれ、彼の婚約者として、そばにいられるのは、あと少しなんだから。

 時間を改めて確認する。刻々と契約終了の時間は近づいていた。

 昨日の深紅のドレスはチューブトップだったのに比べ、今日のドレスは肩紐がついているので、大分気持ちが違う。

 髪型はどうしようかと悩んだけれど、せっかく巻いたことだしアップにはせずに横に流して、大きめの髪飾りをつけることにした。なので、思ったよりも時間がかからずに支度を終える。

 なんだか、ずっと美弥さんを意識してたのに、今の私は「鈴木美和」そのものだった。一樹さんはどんな反応をするだろうかと、緊張しながらもドレッサールームをあとにして、リビングに顔を出す。

 静かすぎる部屋で、彼はさっきの椅子に座ったままの状態で腕を組んで目を閉じていた。あの体勢はどうしたって辛い気が。

 職場でもあるまいし、と思いながら、それくらい疲れているのだと思い直す。私はちょこちょこ休ませてもらっているけど、彼はそういうわけにいかないし。普段の仕事とは違って、ずっと気も張りっぱなしなんだろう。
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