強引専務の身代わりフィアンセ
 部屋を出る際に、鏡で最終チェックをしながら、集中して気合いを入れ直す。今日はドレスの色に合わせて、胸元にはサファイヤのネックレスが光っていた。

 もちろん一樹さんが選んでくれたものだ。偶然にも私の好きなサファイヤで、どこか体に力が入る。うん、やっぱりアクセサリーは、Im.Merはいいな。つけるだけで元気をくれる。

「お待たせしました」

 ドアのところで待っていてくれた一樹さんに声をかけた。彼はいつも通り、仕事で見せる涼し気な表情になっている。そんな彼をじっと見つめて、私は口を開いた。

「一樹さん、あと少しですが、最後まで美弥さんの代わりとして、精一杯婚約者を演じますから」

 誓うようにして告げると、彼の顔がわずかに曇った、気がした。美弥さんの名前を出したことがまずかったのだろうか、と一瞬、不安になる。

「無理言って、悪かったな」

 けれど、彼から返ってきたのは意外にも謝罪の言葉だった。今更、と思いながら私は慌てて否定する。

「いえ! これが私の仕事です。だから、一樹さんは気にしないでくださいね」

 とびっきりの営業スマイルを見せたが、彼の顔は複雑そうだ。やっぱり、私に美弥さんみたいな笑顔はどうしたって難しい。そんなことを思い知らされながら、私たちは昨日と同じホールに足を運ぶことになった。

 会場は、飾られている花やクロスの色などを変えることによって、昨日とは違う別の空間に彩られていた。並んでいる料理も昨日とは趣向が変わって、参加者たちを飽きさせることのない工夫が随所に見られる。

 まだエキスポ自体は続くし、引き続き参加する人たちは多いが、関係者たちを招いての特別開催などはこれで終了だ。
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