強引専務の身代わりフィアンセ
「一度、部屋に戻るだろ?」
時計を見ながら尋ねてくる彼に、私は軽く頷いた。
「そうですね。着替えもしないといけませんし」
まだ九時にもなっていない。これなら泊まらなくても、今日中にタクシーで家に帰れそうだ。一樹さんはお酒を飲んでいるし、会場には車で来ているから、もう一泊したらいいだろうけど、そこにもう私は必要ない。
もう終わりなのだ。
「一樹さん、ありがとうございます」
突然のお礼に、彼は目を丸くしてこちらを見た。
「それは、こっちの台詞だと思うんだが」
「そう、かもしれません。でも私、あなたとご一緒できて嬉しかったです」
最初はとんでもない依頼だと思ったし、さらに専務とだなんて、と思ったけれど。でも、この依頼を引き受けて彼のことを知ることができた。見たことのない顔を見せてもらえた。
ただし、契約上ここであったことはすべて忘れなくてはならない。次に彼と会ったときは、もうなにも知らないふりをしないと。
「美和」
「鈴木さん?」
彼が私の名前を呼んでなにかを言いかけたのと、呼び止められた声が重なる。声のした方を振り向いて、私は目を見張った。
「鈴木美和さん、だよね。オフィス・ベルベリーの」
そこには、昨日会場でお会いしたファッションブランド『ミッテル』の代表である中嶋社長の息子であり、「ティエルナ」を立ち上げた中嶋雅雄(まさお)さんがいた。
彼はこのエキスポには参加しないと聞いていたのに。どうして彼が、思った矢先、中嶋さんはこちらに歩み寄ってきた。
時計を見ながら尋ねてくる彼に、私は軽く頷いた。
「そうですね。着替えもしないといけませんし」
まだ九時にもなっていない。これなら泊まらなくても、今日中にタクシーで家に帰れそうだ。一樹さんはお酒を飲んでいるし、会場には車で来ているから、もう一泊したらいいだろうけど、そこにもう私は必要ない。
もう終わりなのだ。
「一樹さん、ありがとうございます」
突然のお礼に、彼は目を丸くしてこちらを見た。
「それは、こっちの台詞だと思うんだが」
「そう、かもしれません。でも私、あなたとご一緒できて嬉しかったです」
最初はとんでもない依頼だと思ったし、さらに専務とだなんて、と思ったけれど。でも、この依頼を引き受けて彼のことを知ることができた。見たことのない顔を見せてもらえた。
ただし、契約上ここであったことはすべて忘れなくてはならない。次に彼と会ったときは、もうなにも知らないふりをしないと。
「美和」
「鈴木さん?」
彼が私の名前を呼んでなにかを言いかけたのと、呼び止められた声が重なる。声のした方を振り向いて、私は目を見張った。
「鈴木美和さん、だよね。オフィス・ベルベリーの」
そこには、昨日会場でお会いしたファッションブランド『ミッテル』の代表である中嶋社長の息子であり、「ティエルナ」を立ち上げた中嶋雅雄(まさお)さんがいた。
彼はこのエキスポには参加しないと聞いていたのに。どうして彼が、思った矢先、中嶋さんはこちらに歩み寄ってきた。