強引専務の身代わりフィアンセ
「親父から、高瀬さんとこの息子が婚約者を連れてるって聞いて、それは是非お目にかからないとって思ったんだ。だからこうして無理言って今日、来させてもらったんだんだけど……」

 彼の笑みはお世辞にも、あまりいいものとは言えなかった。一樹さんよりもふたつ上だと聞いているが、落ち着きぶりは一樹さんの方が圧倒的に上だと思う。

 長めの茶色に染められた髪は、お洒落とはあまり言えず、話し方からしてもどこか軽い感じがしていた。

 でも、今はそんなことじゃない。中嶋さんはエキストラの依頼を初めてするときに、うちの事務所にやってきた。正式に依頼を受けることになって軽く挨拶したことはあったけれど、まさかこんなところで会うなんて。

 心臓が早鐘を打ちだし、背中に嫌な汗が伝った。

 中嶋さんは私たちの前までやってくると、顔を上下に動かし、あからさまに不躾な視線を私に寄越してくる。一樹さんは、私を庇うように肩を抱いて、自分の方に引き寄せた。

「驚いた。まさかエキストラにお願いして婚約者を用意させるなんて」

「なんの話ですか?」

 仰々しく告げる中嶋さんに、一樹さんが冷たく言い放つ。けれど、中嶋さんは張りつけたような笑顔を崩さない。

「またまた。とぼけなくてもいいよ。おかしいと思ったんだ。高瀬くん、今まで口では言っても、こういった場に婚約者なんて連れてきたことなかったし。モテる男は大変だ。でも考えたよね、お金でなんとかして婚約者を用意しようなんて」

「まったくの見当違いをなさってるようですが? 彼女の実家のことは聞いています。でも、それと今回の件は関係ありませんよ。彼女は本当に俺の婚約者ですから」

 動揺の欠片も見せることなく、きっぱりと言い切る一樹さんに、少しだけ中嶋さんがたじろいだ。だからか、私に話題を振ってくる。
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