強引専務の身代わりフィアンセ
「鈴木さん、本当?」

 本当じゃなくても、本当でも、私の答えは決まっている。

「本当ですよ。私、普段はMILDの社員をしているんです、そこで一樹さんと知り合って」

 エキストラを引き受けたことのある中嶋さんに、プライベートの情報を告げるのは躊躇われたが、この場合はしょうがない。私は甘えるように一樹さんの腕に自分の腕を絡めた。

 人が少ないとはいえ、多少の出入りがあるのも事実だ。誰が聞いているかわからない中で、今はただ、この話を終了させなくては、という気持ちでいっぱいになる。

 中嶋さんは、やや不満そうな面持ちで、一歩我々から距離を空けた。

「ふーん、まぁいいや。最初に事務所で見かけたときから、鈴木さんのこと気に入ってたんだ。仕事も完璧にこなしてくれるし、君の存在は大きいよ」

「ありがとうございます。ですが、仕事の話は事務所へどうぞ」

「そうだね。なら俺も、鈴木さんに婚約者役をお願いしようかな。親父が色々と煩くてさ。……まぁ、本当に婚約者ならそんなことは無理な話だろうけど」

 中嶋さんの挑発めいた言い方に私は言葉に詰まる。返したのは一樹さんだった。

「無駄ですし、そんなことさせません。彼女は俺のものですから」

 空振りに終わった言葉の数々に、中嶋さんの顔が赤くなり、あからさまに不機嫌そうになった。彼はそれ以上なにも言わず、我々に背を向け会場へと戻っていった。

 痛む胸を押さえ、大きく息を吐く。動揺が今更ながらに全身を巡っていく。息が苦しくて動悸が速い。どうしよう、けれど今はなにもできない。

「とにかく、部屋に戻るぞ」

 肩を抱かれたまま、一樹さんに促され、私は静かに首を縦に振る。私たちはそれから部屋に戻るまで互いに口をきくことはできなかった。
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