強引専務の身代わりフィアンセ
 必死に涙を止めようとするのに、上手くいかない。そちらに意識を集中していると、取られていた腕を引かれ、あっさりと彼の腕の中に閉じ込められた。

「美和が謝ることなんて、なにひとつない」

 小さい子どもでもあやすかのように一樹さんは私を抱きしめると、頭を撫でながら優しく囁いてくれた。おかげでさらに涙腺が緩む。ふと、回されていた腕の力が緩んだので、なにげなく顔を上げてみた。

 思ったよりも近くに彼の顔があって、至近距離で視線が交わる。強い眼差しに、瞬きひとつできずにいると、唇がそのままゆっくりと重ねられた。

 目を閉じることができないまま、彼の動作ひとつひとつがスローモーションに見えて、彼の顔が離れても私は固まったままだった。

 そして唇に温もりを感じて、されたことをようやく理解できたところで、再び唇を重ねられる。さっきよりも随分と強引だった。状況についていけず、思わず顎を引いてキスを中断させる。

「なんっ」

 でも、なにかを口にするのも、離れるのさえ許さないとでも言いように、すぐさま唇で口を塞がれる。気づけば腰に腕を回され、もう片方の手は頬に添えられていた。

 逃げることができない。心臓が壊れそうに激しく打ちつけて、頭が上手く働かない中、私は懸命に思考を巡らせる。

 なんで?……代わり、だから?

 その考えに至って、私は彼を反射的に強く押しのけた。一樹さんにとっても意外な行動だったのか、素直に唇が離れ、私は反動で後ろによろける。

 足を取られ、ベッドに背中から倒れ込んだ。スプリングが悲鳴を上げ、早く起き上がらなければ、と思うのに、ままならない。

 心配そうにこちらを見下ろしている一樹さんを視界に捉え、胸が潰れそうになりながら、切れ切れに私は続けた。
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