強引専務の身代わりフィアンセ
「……美弥さんの、ことは?」

 徐々に動き出した頭で浮かんだことを、たどたどしく口にする。すると彼は、やるせなさそうな表情でこちらを見つめてきた。

「何度も言ってるだろ。彼女は俺のことをなんとも思ってないし、親同士が勝手に言ってるだけだって」

「でも、でも一樹さんは美弥さんが好きなんでしょ? だから名前が一文字違うって理由だけで私に婚約者の代行までお願いして」

「逆だよ。彼女と美和が一文字違いだから、美和の仕事もあって、こんなことを頼んだんだ。言い出したのは俺じゃないが」

 私とは真逆のトーンで彼は冷静に返してくる。それでも、私の頭の混乱は治まらない。

「どうして? だって一樹さん、私のこと好きじゃなかったでしょ?」

 初めて会話したのは会社で行われた歓迎会、二回目はティエルナのエキストラをしていて彼に問い詰められたとき。

 どちらも腹の探り合いのようなやり取りで、とてもではないが、好意と呼べるようなものを向けられた覚えはない。そして次に会ったのが、婚約者の依頼をしに事務所にやってきたときのはずだ。

 そのことを指摘すると、一樹さんは眉を寄せて、私の上から隣に体を移動させた。二人分の体重にベッドが軋み、私は彼を自然と目で追う。

 同じようにベッドに横になった彼は体をこちらに向けて私を自分の方に抱き寄せた。

「好きじゃないのは、美和の方だろ。でも、こっちは初めて会ったときから、ずっと気になってた」

「初めてって……」

「歓迎会のときじゃない。美和はそれ以前に一度、冬のジュエリーイベントにも来てただろ。ティエルナのブースに」

 思わぬ指摘に私は目をぱちくりとさせる。一樹さんは、私の髪にそっと触れてから、どこか面白くなさそうに続けた。
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