強引専務の身代わりフィアンセ
 べつに彼女じゃなくてもかまわない。Im.Merの商品を見て、あんなふうに笑ってくれる顧客が現れたらそれでいい。

 そう心の中で結論づけながらも、俺はどうしても彼女のことが忘れられなかった。どこの誰かも知らないのに。ましてや彼女はうちではなくティエルナの大ファンだ。

 早く忘れた方がいい。頭では理解しているのに、それができない。新作の打ち合わせをしながら、これなら彼女は笑ってくれるだろうか、そんな馬鹿なことさえ思った。

 夏のイベントでまた会えるかもしれない。会ってどうしたいのかは自分でもわからないが、淡い期待を抱いていると、俺は思ってもみないところで彼女と再会を果たした。

 毎年恒例の新入社員歓迎会で俺は自分の目を疑うことになる。ずっと探していた彼女が、なぜか新入社員の立場として再び俺の目の前に現れたのだから。

 けれど、初めて見た彼女とはまったく印象が違う。それにMILDやIm.Merのアクセサリーを見ても笑うどころか、無表情に眺めていた。

 当たり前か、彼女はティエルナの大ファンだ。なら、どうしてここにいるのか。あれこれ思う間もなく俺は彼女の元に近づいていた。

『アクセサリーに興味は?』

 とにかく彼女のことが気になって、話しかける。彼女は眼鏡の奥の大きな瞳を揺らしてこちらを見てきた。

『正直、あまりないですけど』

『なら、なぜうちの会社に?』

 彼女の嘘に、つい棘を含ませた言い方をする。興味がないなら、イベントに足を運んだりしない。ティエルナのファンだというのを隠したいのか、それとも。
< 164 / 175 >

この作品をシェア

pagetop