強引専務の身代わりフィアンセ
『……けど、Im.Merは別格ですね。色のついた天然石ってとくに若い方はどうしても敬遠しがちなのに、アンティーク調のデザインとゴールドと組み合わせることで、あんなにも身につけやすくなるなんて。カボションカットやバケットカットを利用して宝石を最大限に見せることで、シンプルさとは真逆に、個性が出ますし。リングもネックレスも重ね付けできるようになっているのもいいと思います』

 彼女の口から出た言葉に、俺は意表を突かれる。どうして好きでもない会社の商品のことをそんなふうに言えるのか。おべっかかと思ったが、あまりにも淀みなく言い切る彼女に嘘は見えなかった。

『そう言うわりには、ひとつも身につけていないんだな』

 そうはいっても、彼女はIm.Merのアクセサリーを身につけてはいない。ティエルナのアクセサリーを身に纏っていた彼女の姿を思い出す。彼女の本音がどこにあるのかわからない。

『残念ながら、機会がなかったので。すみません、失礼します』

 これ以上、話したくないというのがありありと伝わってきて、彼女との会話は終了した。自分はなにをしたいのか、なにを聞きたかったのか。

 ただ、逆に機会さえあれば彼女はIm.Merのアクセサリーをつけてくれるんだろうか、そんなことを考える。

 彼女の名前は鈴木美和。この四月から契約社員としてうちに入社し、経理を含め主に事務を担当している。

 こうして、ずっと探していた彼女の名前を俺はようやく知ることができた。けれど、それだけだ。それ以外、俺は彼女のことをなにも知らない。

 知る必要さえあるのか。ただ、彼女と会ったときから心の中を覆う靄みたいなものが晴れることはなかった。
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