強引専務の身代わりフィアンセ
 美弥との話は極力したくはなかったが、そのことで最終的に彼女から依頼を受けると承諾を得ることができた。仕事でも関わることのなかった彼女と、妙な形ではあるが繋がりができたことに安堵する。

 これで、ほとんど目的は達成した、はずだった。

 けれど、彼女といると、自分の感情の起伏に驚かされる。打ち合わせと称してふたりで会うことになったとき、Im.Merのネックレスをつけてきてくれたことが、思った以上に嬉しかった。

 格好も、会社とは全然違う、素の彼女を見たような気になる。気を遣っただけかもしれない。それでもよかった。

 かと思えば、きっちりと仕事だと線引きしてくる彼女に変な苛立ちを覚えることもあったり。彼女はなにも間違っていない。

 だから、というわけでもないが、彼女をあの河原に連れていくことにした。なんとなく、彼女がどんな反応をするのか気になった。

 仕事としてではなく、彼女自身はどう思うのか、彼女のことが知りたくなった。

 結果、まさかの「川に落ちたのか」発言に、俺は素で笑いを堪えきれなかった。冗談でもからかいでもなく、真面目に尋ねてくる彼女がおかしくて、可愛らしくて。

 しかも自分の経験から、なんて言うものだから彼女のことにますます興味が湧く。自然と子どもの頃の話をする俺に、彼女はここがIm.Merの原点だということを汲んでくれた。

 連れてきてよかった、ここに連れてきたかった。雰囲気もあってか、同じように子どもの頃の話をしてくれる彼女から目が離せなくなる。だから、柄にもなくあんな無茶ができた。

『初めてだろ、美和が自分の話をしてくれたの。だから、叶えてやりたくなったんだ』

 それは紛れもない本心で、彼女に笑って欲しかった。自分の気を晴らすためじゃない、純粋にそう思えた。
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