強引専務の身代わりフィアンセ
「それで、理由がはっきりしたところで引き受けてくれるのか?」

 話が戻り、急かすような問いかけに私の心が揺れる。どうすればいいのか。手に持っていたファイルをぎゅっと握りしめた、そのときだった。事務所のドアが開く音がして、私の意識も顔もそちらに向けられた。

「やっほー。美和ちゃんを無事に口説き落とせた?」

 突然現れた人物に目を見張る。スーツを着て、眼鏡をかけたまさに『美青年』という言葉がぴったりの男性がそこにいた。

 柔らかい口調と笑顔。けれど頭と育さが一目で伝わってくる。専務よりも幾分か若い感じがするのは彼の雰囲気もあるのだろう。

「幹弥(みきや)」

 専務が呆れたように彼の名を呼ぶ。呼ばれた彼は無遠慮に、かつ優雅に私たちのソファまで歩み寄ってくると、私に視線を寄越して微笑んでくれた。

「初めまして、桐生(きりゅう)幹弥です。夜分に突然、ごめんね」

「どうしてここに?」

 すかさず口を挟んだのは専務だ。

「だって一樹くんひとりだと絶対にうまくいかないと思って助けにきてあげたんだよ。やっぱり苦戦してるんでしょ?」

「余計なお世話だ」

 ぶっきらぼうに告げる専務を尻目に、桐生さんはテーブルに置かれた美弥さんの写真をひょいっと持ち上げた。そして、こちらに笑顔を向けてくる。
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