強引専務の身代わりフィアンセ
「それで、一樹くんの依頼は引き受けてくれるのかな?」

 その勢いのまま畳みかけるようにして触れてくる核心。彼の笑顔はどこか首を横には振らせない圧があった。私はそこで、視線を専務の方に戻した。

「もし、私がお断りすれば、専務は……困るんですか?」

「困るな。俺には君が必要なんだ」

 迷いのない物言いに、こちらが動揺しそうになる。私はぐっと体に力を入れた。

「……わかり、ました。詳しいお話を聞いて、こちらとの条件が合えば……お引き受けします」

 仕事でもほとんど関わったことない専務と、まさかエキストラのクライアントとして契約するなんて。ましてや婚約者などどうすればいいのか。

 ただ名前が似ているから、というだけで指名してくれたのかもしれないが、こっちはそんな気楽にかまえるわけにはいかない。

 けれど、私の返答に対して、桐生さんの明るい笑顔よりも、専務のどこかほっとしたような顔の方が目に焼き付く。断らなくて正解だったのかもしれない。心のどこかでそう思えた。

 翌日、改めて両親に話を通し、正式に専務からの依頼を受けることになった。専務が差し出してきた小切手はあの場で丁重にお返しし、うちの事務所の規定に則った料金を提示した。

 それにしても、今まで様々な要望を受けエキストラをしてきたが、事務所としてもこんな依頼内容はかつてない。

 両親も最初は難色を示した。それでも、私が口添えしたのもあって最終的に引き受けることになったのだ。

 こうなってしまっては後には引けないし、私も覚悟を決めることにする。というわけで、まず私がしなくてはならないのは……。
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