強引専務の身代わりフィアンセ
「……私がこの仕事を手伝い始めたの、実はわりと新しい話なんです」

『美和はどうしてこの仕事をしてるんだ?』

 先ほど、専務から質問されたことに今更ながら答える。自分のことを話すのはあまり得意ではないけれど、自分が彼のためにできることは、それくらいしか思い浮かばなかったから。

 元々、両親の仕事にはあまり興味はなかった。代行業の仕事を始めたときもそれは同じで、関わるつもりもなかった。

「大学を卒業して、就職は大手企業に決まったんです。一人暮らしをして、そこで一年半勤めていたんですけど、体を壊しちゃって……」

 言葉尻を濁しながら、どこの企業か名前は言わなかった。思い出がズキズキとした痛みと共に蘇ってくる。誰もが知っている有名企業で、就職できたときは両親も喜んでくれたし、私自身も嬉しかった。

 就職先は別だけれど、同じ大学出身の付き合って一ヶ月になる彼氏もいたし、なにもかもが順風満帆に思えた。

 けれど、すぐに雲行きは妖しくなった。入社して研修もそこそこに、与えられていく仕事量は半端なものではなくて、それは新人だからとか関係なかった。

 それに気づいたのは、ずっとあとの話。初めて就職した私にとっては、仕事の適量さなんてわかっていなかった。ただ、仕事がこなせないのは自分の力不足だと認識していた。

 最初に所属したのは総務部で、事務や経理の仕事を担当することになった私は、とにかく毎日必死だった。仕事をこなす前に覚えることがありすぎて、帰り時間もどんどん遅くなる。

 ひとつの仕事を終える前に次の仕事が回ってきて、キャパオーバーになりそうなのを綱渡り状態でなんとかこなしていた。同期や先輩が去っていくのを、短い期間でどれほど経験したか。
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