強引専務の身代わりフィアンセ
 彼氏と会う時間だって取れない。でもお互い社会人になったし、忙しくてこんなものなんだと思って、あまり気にしていなかった。

「仕事は好きでした。大変だったけれど、任されるのは嬉しくて。必要とされている気がして、だから頑張れたんです」

 ただ、気持ちに体がついてこなかった。ある日、突然激しい目眩と立ちくらみに襲われ、その場を動くことができなくなった。

 気づけば私は病院のベッドの上にいて、心配そうな母の顔がそこにはあった。医師からはしばらくの安静を言い渡され、こんなときでも私が気にしたのは仕事のことだった。今日までにやらなければいけない書類があったはずだ。

 けれど、そのあと病院に現れた上司からは、労いの言葉をかけられながらも、暗に自主退職を勧められることになった。新人ともいえる私が、持病などではな長期休むのは、会社としてもマイナスだったんだと思う。

『心配しなくても、君の代わりはいくらでもいるから』

 もしもこれが、戻ってくるのを前提に掛けられた言葉だったらきっと違っていた。でも、そうじゃない。

 ああ、そうだ。私はなにを勘違いしていたんだろう。必要とされている、なんて。役に立ちたい、だなんて。そんなものを仕事に求めるのは大きな間違いだった。少なくとも、私みたいな人間は。

 心が折れそうに辛くて。ここでようやく私は久々に彼氏に連絡したけれど、その態度はどこか素っ気なくて。結局、彼は同期入社の女性と親しくなって、そちらを選んだ。

 怒るとか、悲しいとか、そんな感情さえ湧いてこない。

 仕事だからって言い訳して、彼と向き合う時間を作らなかったのだから、しょうがない。これは全部当たり前の結果だ。
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