強引専務の身代わりフィアンセ
「それで実家に帰ってきてリハビリがてら、家の仕事を手伝うようになったんです。そんな理由ですよ」

 自嘲的に私は言い捨てた。こんなことを彼に話してどうするのか。ここまで事情を説明しなくても、単に親の仕事を手伝ってる、でよかったのに。

 最初は人手が足りないから、とかそんな理由。でも、エキストラの仕事があったから、私はまた働くということを前向きに捉えることができた。

 自分のためにも、誰かのためにも一生懸命になれる。大変さのなかに、やりがいを見いだせた。

 けれど専務にとっては、知らなくていい話だ。こんな返事に困るような話をして。我に返って私は慌てて取り繕った。

「大丈夫です。もう誰も責めていないし、傷ついてません。仕事にしても、彼にしても、私はいくらでも代わりがきくのに、それを自分がわかっていなかっただけなんです」

「そんなことないだろ」

 背中に投げかけられた専務の言葉に、私はわずかに目を見張った。そして否定してくれたことに対して、嬉しさよりも苛立ちの方が先に走る。

「……心にもないこと言わなくていいですよ」

 意識せずとも棘を含んだ言い方になってしまう。違う、彼にこの感情をぶつけてもしょうがない。もう一人の冷静な自分が抑えようとするのに、私は止められなかった。

「専務だって、私のことをいつでも切っていい存在だって思っているくせに。代わりがいくらでもいるから、契約を切るなんて言って簡単に脅かせるんでしょ?」

『このままだと、なにかしら理由をつけて契約を切るぞ』

 ティエルナの一件で対峙したとき、鋭い視線を向けながら彼は私に言い放った。あの光景がありありと胸のうちに蘇ってきて押し潰されそうになる。
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