双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
「この服、残してくれてたんだな。とっくに捨てられたのかと思ってた」

今彼が来ている長袖Tシャツは付き合っていた頃に、彼が葵の部屋に置いていったものだ。

元々彼が着ていたカレーがついたシャツはシミ抜きをして乾燥機にかけている。

「……なんとなく置いてあっただけだけど」

本当は捨てられなくて大切に持っていていたのだが、わざとなんでもない風をよそおって葵は言った。

そんな葵を晃介はしばらくジッと見ていたが、それ以上はなにも言わなかった。

「こっちにはいつ戻ったんだ? 地元へ帰ったって聞いたけど」

「……二カ月前。母の心臓に病気が見つかっ て。特殊な症例だから地元の病院では診られないって言われて転院してきたの」

すぐに命に関わるわけではないけれど、放っておくわけにいかない母親の病名を口にすると、晃介は頷いた。

彼の専門は脳外科で心臓専門外だが、心あたりがあるようだ。

「あの病気は、確か東洋医大に専門の先生がいたな」

「うん、母は東洋医大の近くのアパートでひとり暮らし。ここからも近いけど一緒に住むのはちょっとね……双子がバタバタして落ち着かないから、病人にはよくないし」

当初葵は、晃介の父親が用意した病院でずっと働くつもりだった。

でも出産、母の病気といろいろなことが重なって辞めざるを得なくなってしまったのだ。

都内に戻ってこなくてはならなかったのは想定外だったが、それ自体は合意書違反ではない。

これまでのだいたいの経緯を話し終えると、晃介が、いよいよあのことについて話しはじめた。

「どうして、知らせてくれなかったんだ? ……あの子たちのことを」

やはり彼はもう完全に双子を自分の子だと確信しているようだ。

葵はそれを否定しなかった。できなくなっていたのだ。カレーまみれになった時の三人の笑顔が心に焼きついてしまっている。

でもだからといって晃介の疑問に答えることはできなかった。

うつむいて黙り込む。

その沈黙を晃介は別の角度から解釈したようだ。端正な顔を歪めて苦しげに口を開いた。
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