[書籍化、コミカライズ]稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ

86.ホラーのリアル再現映像一時停止と美味しい食事が大事な理由

「「「……」」」

 あらあら、どうしたのかしら?
魔獣避けを状況に即して完璧に説明したはずなのに、何の反応もしてくれないわ。

 それにしてもこの3人……あちらの世界のホラー漫画を彷彿とさせる、何ていうの……ヤバイ形相?

 眉根を寄せて、目も口もカッと開いていて、なのに何も喋らないって……やだ、ホラーのリアル再現映像一時停止は怖いのだけれど?
それに全然動かないわ。
震えているけれど、動きがないってどんな状況?

 昨今のフリーズという現象はまさかこれなの?
約1世紀分の経験があっても、ジェネレーションギャップが怖すぎるわ。

 でもそうね。
動かないなら放っといていいわよね。
そうね、そうしましょう。

 そそくさとローレン君の元に行けば、既に3つの塊にハーブソルトをかけ終わっていたわ。
残り1つね。

 仕事の早い男は素敵よ。

「何事も無くて良かったです。
でもアレ、怖すぎませんか?」
「シッ、見ちゃいけません。
動くまでそっとしておきましょう」
「そうですね」

 そうして私は腰の短刀を引き抜いて両手と刃に洗浄魔法をかけてから手の平サイズになるよう格子状に切れ目を入れる。

 後は少し反った部分から刃を滑らせて身がボロボロにならないように気をつけながら袋から取り出した2本の串に刺していくだけよ。

 正規の蟹肉ならボロボロ落ちるでしょうけれど、これは魔獣のお肉なの。
捌いて軽く反る程度の時間を置けば、身が締まって落ちる事はなくなるわ。

 何だか串に刺すと鰻の蒲焼きにも見えちゃう。
……鰻重食べたい。

 なんて鰻に思いを馳せながら、ひとまず1人1つ、計5つの串打ちが終わったところでローレン君を見る。
彼もハーブソルトをかけ終わったみたい。

「それじゃあ私はこの5つを火で炙るわ。
ローレン君はこんな感じで残りを格子状に切って持ちやすく四角い状態にして殻から外していってちょうだいな。
串打ちと炙り、それから他にもいくつかの調理は私がするから、まずはいくらかできたら声をかけて欲しいの」
「それならでき次第公女の傍に持って行きますね。
串打ちの準備して炙ってて下さい」
「了解」

 うちのテントは火の近くで木を利用して張っているわ。
4年生のテントとは少し距離があるの。

 お孫ちゃんの姿が見えないと思っていたけれど、いつの間にか土を採取し終わったうちのリーダー達に混ざっていたみたい。

 テントを張るのを手伝ってくれているのかしら?
でも良かったわ。
お孫ちゃんなら自分達のテントに足りない所に気づいてくれるはずよ。

 なんて思いながら目の前の火を確認して、ほっとする。

 少し小さくなってしまったけれど、鎮火してなくて良かったわ。
家格君達に邪魔されて時間を取られてしまったから、少し心配してたのよ。 

 近くにあった木の枝を焚べて鞄から取り出したうちわで火を大きくしておきましょうか。
その後皮袋を取り出して中の木炭も投げ入れたわ。

 この皮袋、火蜥蜴の皮で作ってあるの。
使用した木炭を入れると火消し壺みたいな役割をしてくれて便利よ。
火を体内生成して口から吐き出す蜥蜴の皮だから、火のついた木炭を入れても熱くならないし、密閉されて火も消えるから木炭の再利用も可能なの。

 あちらの世界の火消し壺みたいでしょう。
でも皮だから軽いのよ。
調理担当の私の鞄は重くなりがちだから、助かるわ。

 もちろんやろうと思えば魔法でパパッと調理はできるのよ。
周りも一応私が生活魔法は使える認識はあるから、使うのは問題ないわ。

 でも魔獣討伐なんて殺伐とした事するなら、せめてご飯は美味しい物を食べたいじゃない?

 特に私達Dクラスは食料を寄付したりする関係もあって、魔獣討伐の機会は多いの。
魔獣であっても命を刈り取る以上、年若い学生達の心は討伐に伴って殺伐としやすくなるわ。

 だから命に感謝なのよ。

 感謝の気持ちもなく何度も魔獣を狩っていれば、いずれ慣れて命を奪う事に何も感じなくなって暴走しかねない。
青少年には悪影響よ。

 あちらの世界でも動物愛護団体が猛批判するような、そんな事件あるわよね?
どこの世界も同じなの。

 それをその場で払拭する機会が多いのが、食事じゃない?

 少し手間だけれど木炭でじっくり焼いたり、チップを使って燻したりして美味しくいただけば、討伐の仕方だって変わる。

 何より美味しい食べ物を孤児院へ寄付すれば、可愛らしい純粋なお顔に感謝もされて一石二鳥よ。
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