桜の木の誓い
少々生意気そうな声が聞こえて優真は振り向く。

幼さを残した顔の青年が、此方をじっと見ていた。


「単にこっちのほうが着慣れてるからだけど……誰?」


突如現れた青年に優真は警戒する。それを知ってか知らずか青年は少し口角を上げ、ゆっくりと近付いてきた。

互いの顔が十分確認出来る距離まで来ると、更に青年のその口元は笑みを増す。


「俺は藤堂平助って名前だよ。優真…だったけ?女が袴を着たがるなんて変なやつだねぇ。…そういえば、運んできた時も変わった着物着てたか。最初は夷人かと思っちゃったよ」


(変わった着物……って、ブレザーのことね)


どうやらこの時代の人にとって夷人とは物珍しい存在らしい、それは何となく分かっていた。

予想外だったのは、制服が夷人だと勘違いさせる要素を持っていた事だ。

目覚めた時からの周りの反応を見ればそれは明らかで、おつねや沖田もブレザーについて散々言っていた気がしないでもない。


「言っとくけど私夷人じゃないよ、…藤堂さん」

「わかってるよ。あと平助でいいからねぇ〜、ところでこんな朝早くに此処で何してたのさ」


相も変わらず話し掛けてくる藤堂に優真は警戒を解いた。

藤堂は口調に多少棘が含まれているが、意外にも気さくな青年のようだ。


突然ひょっこりと現れた何処ぞの馬かも判らない、ましてや夷人疑惑の持ち上がった奴に普通に話し掛けてくるなんて。

それを優真は嬉しく感じた。

きっと、いや絶対に自分だったらそんな奴に警戒を解かないだろうから。
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