ハッピークライシス









イァノ美術館から名画が盗難されてから、2週間。

日々、目まぐるしく変わる情勢に流され、"メテオラ誘拐"事件についてはすっかりニュースでも取り上げられなくなっていた。

イタリア南部に位置するエルダナ市郊外、昼間はカフェを営むバーのオープンテラスで、ユエ=ハネンフースは一人ランチを楽しんでいた。

長い足を優雅に組み、頬杖をつきながら外を眺めている。

美しく整った容姿に、ちらりちらりと視線が送られるが、一向に気にする様子はない。中には直接ユエに声を掛ける女や、時には男もいたけれど、「待ち合わせしてる」の一言で全て追い払った。


昼時ということもあって、店内は多くの客で賑わっている。

それなのに、入店のベルと同時にシンと一瞬で静まり返った気配を察してユエが後ろを振り返れば、そこにはブラックスーツにサングラスという明らかに一般客とはほど遠い雰囲気を持つ青年がきょろきょろと周囲を見渡していた。

< 10 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop