ハッピークライシス


「シンシア」

「・・・あ、いたいた」


シンシアと呼ばれた青年が、サングラスを外しながら小さく手を上げた。

ユエの隣に座り、エスプレッソを注文する。
先程まで怯えきった様子でいた店員が、頬を赤らめているのを見て、ユエはなんてゲンキンなんだと思う。


"顔が良ければ、悪党でもいいのか?"


「何だ、ジロジロ見て。見物料取るぜ」


平淡な調子で言うシンシアに、肩を竦めた。



シンシア=イオハルトはマフィアだった。

イタリア全土に根を張る、コーサ・ノストラ・レヴェンという伝統と格式を重んじる巨大秘密結社に属する。

元々はフリーで動いていたところ、レヴェンのアンダーボスに才覚を買われ、つい最近組織に引き抜かれたらしい。その詳しい経緯をユエは知らないが、シホと同様にシンシアとは幼い頃から同郷で育った関係だ。

彼の才能が大物マフィアの目に留まることについてユエは驚かなかったし、いずれ組織の中でも幹部クラスとなるだろうと思っている。

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