ハッピークライシス
視線の端に、木の幹から顔を覗かせる少女が映る。
亜麻色の髪。間違いない、他人の記憶を消すという特異な能力を持つ少女だ。
「こんなことをして、自分がどうなるか分かっているの」
「心配してくれるのか?」
こんな状況でも、まるでいつもと変わらない調子でユエは微笑む。
シホは、奥歯を噛みしめた。ゆっくりと身体を起こして立ち上がる。銃を奪われた状態で、ユエ=ハネンフースに勝てる見込みなどゼロに近い。
けれど、どうしても許せなかった。
腰に差していたボウイナイフを抜きとり、ユエに向けた。
「そこにいる"少女"を返せ。それは、コーサ・ノストラ・レヴェンの所有物となった。それでも持ち去るというのなら、どんな手を使ったとしても、あたしとレヴェンがあなたを殺す」
「出来ないことは口にするな」
ユエが、低い声音で呟いた。
先程まで浮かべていた微笑みは消え、無表情のままゆっくりとシホの銃を握る。