ハッピークライシス



「(…そろそろ、帰ってもいいか)」


空いたグラスを使用人に手渡し、ゆっくりと扉を押してホールの外へと出る。
淡いイエローライトに照らされたロビーの椅子に、ひとりの女性が腰掛けているのが見えた。

彼女は、ユエの姿を見てすぐに立ち上がる。
たっぷりとした栗色の髪と、エメラルドグリーンの瞳。美しい顔立ちは見るものを惹きつける。


「もう、お帰りですか?ロゼ様」

「…ご招待頂き感謝します、マダム」


好青年のロゼを演じるユエがにこりと微笑めば、恥ずかしそうに首を傾げつつ頬を薔薇色に染める。

年齢は20代前半だろう。その麗しい姿かたちをフェデリコに見初められて、半ば強制的に嫁がされた妻。
< 25 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop