ハッピークライシス
「"奪われたんだよ"」
「何を」
「全部さ」
「…全部を奪う…?一体、何のことだ。分かりにくい言い回しをするな、鬱陶しい」
シンシアは、いよいよ苛立ちを顕わにする。
そのブルーの瞳をアルコールで揺らしながら、ドンとグラスをテーブルに叩きつける。衝撃で中身の琥珀が飛び散った。
「全部といったら全部だ。"メテオラの乙女"も"売値にした400万ドル"も"記憶"さえも全部!大失態だ。この交渉を計画し実行した俺のな!!まじで、あんなにボスを激怒させたの初めてだぜ」
ぶちぶちと文句をいいながら、ひたすらにヘネシーを煽る。
いつもは冷静沈着なシンシアがこうも荒れるとは。ユエは内心驚きつつ、シンシアの言葉を自身の中で噛み砕く。
自身に起こった出来事と透かし合わせながら。
「"記憶"」
奪うことなど、本来出来ないもの。
ふと、電話越しでシンシアが使った妙な言い回しを思い出した。