ハッピークライシス


「どういうつもり」


シホとユエが住む旧市街から20分程歩けば、町の中心地へと着く。
顔に似合わず甘いものが好きなユエは、嬉しそうにジェラートに舌鼓を打ちつつ真っ青な海を眺めていた。


「何がだ?シホも、ピスタチオがよかった?」

「ジェラートじゃないわよ。何が目的かって聞いてるの」

「最初に言っただろ。寂しいじゃないか、また暫らく会えないんだから」


ユエは目を細めてシホを見る。

ジェラートを持たない左手が、ギュッと握られた。
驚いて顔を上げれば、ユエが曇りひとつない笑顔を浮かべて、シホを見つめていた。

"ほら、行こう"

そう言って、ユエが何の迷いもなくシホの手を引く。


―…嘘つき。いつだって、何も言わずふらりといなくなるくせに。


そんな、子供染みた言葉を吐いてしまそうで、ぎゅっと口をきつく結んだ。

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