ハッピークライシス



ジェラートを食べ、市内を散策しながらたどり着いたのは、イタリアで最も古く歴史ある美術館。元々修道院であったそこは、厳かな雰囲気が漂いとても静かだ。

シホは、芸術や骨董などについてユエに話を聞かされる以外殆ど触れることがないため、この場所を訪れたのも勿論初めてだった。
ステンドグラスで装飾された窓からは、色味の帯びた光が差し込み、シンプルな石造りの廊下を照らしていて、とても美しい。


「ずっと来たいと思ってたんだ」


ユエは言った。
まるで、子供みたいに嬉しそうに目を細める様子に、思わず"可愛い"なんて思ってしまう自分に呆れてしまう。

"欲しい"という感情を抱かせてしまったが最後、どんな手段を使おうとも必ず奪う"青薔薇"だというのに。


―手に入れる為なら、あたしもシンシアも、何の躊躇いもなく切り捨てる。ユエは、それが出来る人間だ。


充分すぎる程わかっていることなのに、そんなことを考えては心が痛い。こんなくだらない感情は、この仕事をする上で邪魔にしかならないのに。

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