ハッピークライシス



「・・・これは、流石に盗めないな。壁ごと崩すわけにはいかない」


ユエがぽつりと呟いた。
まったく、笑えないジョークだ。

暫く絵を眺めていれば、いつの間にかユエの姿が見えなくなっていることに気づいた。


「・・・ユエ、どこ?」


きょろきょろと周囲を見渡す。
相変わらず他に拝観客はおらず、シンと静まり返っている。

廻廊に出て、ひとつづつ僧坊を覗きながら入り口まで戻れば、小さな紙袋を持つユエが姿を表した。


「どこ行ってたのよ」


シホが声を掛けて走り寄ると、ユエは小さく微笑んで紙袋を持ち上げた。

はい、と手渡されたソレを首を傾げながら受け取る。
中に入っていたのは、少し大振りな一枚のポストカードだった。


「あげる。シホ、その絵が気に入ってたみたいだから。外の売店覗いたらちょうど売ってたんだ」


驚いてユエの顔をまじまじと見つめていれば、何を勘違いしたのか、ユエは小さく肩を竦め、


「勿論、ちゃんと金は払ったぞ。盗品じゃない」


と言うのに、思わず笑ってしまった。

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