ハッピークライシス



「ありがとう、今日は付き合ってくれて」


ユエが振り向き、ベッドに手をついてシホを見下ろす。深い青色の瞳がゆっくりと細められた。


「・・・ううん、あたしも楽しかった。これも、凄く嬉しかったし」


ユエが盗めないと言った美しい壁画。
サイドテーブルに立て掛けたポストカードを指さした。

アルコールの所為か、酷く頭が回る。

ドレス、脱がなくちゃ。お気に入りなのに皺になっちゃう。目を瞑りながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

視界を閉じていてもわかる。
ふと、目の前の光が遮られ、触れるように瞼に口付けが落とされて、その冷たい温度に身震いした。

ロマンチックなど欠片もない。



ゆっくりと目を開ければ、美しいユエの顔が眼前一杯に映った。
覆いかぶさるような態勢で、シホの細い手首はユエの右手に掴まれベッドへと押し付けられている。

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