この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


くら子さまやさき子さまのお心を思うとせつなくて、つい 兄さまに甘えたい衝動に駆られる。


だから私は、背を向けた兄さまを追って、その手を握った。



(………冷たい)



いったいいつから、私を待っていて下さったのですか?



尋ねるように見上げると、兄さまは気恥ずかしそうな苦笑を見せて、そっと手をほどいただけ。



そのまま また前を歩きだす兄さまの背中を見つめながら、私はくら子さまのお言葉を思い出していた。





お腹を痛めて産んだ、大切なわが子。
けれど自分の子でありながら、その命は主君のためのもの。



『忠義』のためにある命は、けして私事で捨ててはならない。



その命はあくまで、主君のため、お国のために使うもの。





………兄さまも いつか。そして 利勝さまも。



そんな日が 来てしまうのだろうか。





「……あいつ。少しは元気になったようだな」

「えっ?」



ふいに兄さまが口を開かれた。
はっと我に返った私は、思わず聞き返す。

けれど掟のためか私を振り返らず、前を向いたまま、兄さまは独り言を装う。



「さっきも悌次郎の隣家の山本さまのお宅へ、砲術の稽古に行くと飛び出して行ったよ。立ち直り早いな。あいつ」



………そうなのかな。



きっと 何かに没頭しないと、やっていけないんじゃないのかしら………。



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