この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
「ゆき?」
「……はい。利勝さま」
まるで今までを取り戻すかのように、何度も繰り返されるその甘い呼びかけに、
涙がやんだ私がようやく応えると、利勝さまはよりいっそう優しく目を細めた。
そうして気恥ずかしそうに、目線だけで兄さまを気にするそぶりを見せると、小声でおっしゃる。
「……本当はずっと、名前で呼ぼうと思ってた。
けど 今さらなって思うと、なかなか言いづらくてな」
いつものようにお顔をしかめて口を尖らすから、ついつい笑ってしまった。
それを見て安心したのか、利勝さまは再び私の両肩に手を置くと、ゆっくりと身体を離す。
両肩に手を置いたまま、また向かいあうと、利勝さまはしっかりと私の目を見つめておっしゃった。
「ゆき、聞いてくれ。途中であきらめてもいい。出来なかったらそれでもいいんだ。
だが、これだけは忘れないでほしい。
お前はけして、人より劣ってなんかいない。
たとえ足が悪くても、卑屈になることはないんだ」
真摯な眼差しで、私を見つめてくる。
私も。そんなあなたを、心に焼きつける。
「俺も八十も 待ってる。
たとえ 何年かかろうと、お前が来るのを待ってるから」
――――利勝さま。
ずるいです。
こんなときばかり、いつも以上に優しいなんて。
普段見せてくれなかった笑顔を、こんなに惜しみなく見せてくれるなんて。
「……ひどいですね。“待ってる”なんて言われたら、行かない訳にはまいらないじゃないですか」
ずずっと鼻をすすって、しゃくりあげながら言う私に、利勝さまはまた目を細めて笑う。
そして 懐から手拭いを取り出した。
私が贈った、あの藍色の手拭い。
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