この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
男の子が歩調を緩めてくれたので、後を追いながら、私はまわりの景色を眺める余裕ができた。
男の子は、私が帰ろうと思って渡ってきた橋を、また渡っていた。
どうやらこの橋は、来る時に渡った橋とは別のものであったらしい。
だから迷ったんだ と 納得しながら、そこから左に曲がり武家屋敷を通り抜け、川に沿って歩く。
そしてこちらが正しかったのだろう橋を渡る。
やっと見たことのある風景に戻れたことに安堵して、私はゆっくりまわりを見渡しながら男の子の後に続いた。
南に広がる田の面は水を満々と張って鏡のように山々を映し、あちらこちらで蛙がその声を競い始めている。
武家屋敷の建ち並ぶ、築地塀や板塀の向こうからは、夕飯のおいしそうな匂いと子供達の笑い声。
夕日はとうに山の向こうに落ちているけど、西の空とそこに浮かぶちぎれ雲が、名残惜しむかのように橙色に映える。
山々も、まわりの木々も、その豊かな緑を碧く染めてく。
空の真上は 星が輝きだし、東の空には白い半月がくっきりと浮かんでいた。
………キレイ。
こんな時刻に、外にいるのは初めて。
もうすぐ闇が落ちてくる。そんな時刻に。
………不思議と、怖いとは思わなかった。むしろ、胸が高鳴った。
まるで お伽話の中に入り込んだような、不思議な感覚に包まれて。
そんなふうに思えるのは、ひとりじゃないから。
少し離れた先をゆく背筋のピンと伸びた背中が、私に安心感を与えてくれるから。
きっと 後ろ姿が、兄さまと似てるからだわ。
まっすぐ伸ばした背筋が、誇りを持って 堂々と歩く姿が。
ああ……きっと この人も、日新館に通っているのね。
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