この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜



 母さまは手を伸ばし、兄さまの手を取る。
 そしてその手をやさしく包み込むと、柔らかく微笑んだ。



 「八十治さん……ありがとう。こんな私の息子になってくれて。
 私はあなたのお父上に嫁いで本当に幸せでした。あなたは私の、自慢の息子よ」



 兄さまも目を細めて、少し照れたように答える。



 「御礼を申し上げたいのは、私のほうでございます。
 八十治は継母上に、実の母のように甘えさせていただきました。
 継母上の子になれて幸せだったのは私のほうです。
 継母上……本当にお世話になりました。どうか息災で。私の分まで長生きして下さい」



 見つめ合うおふたりは、本当の親子と何ら変わりない。



 「……みよさまもきっと、あなたを誇りに思っておられますよ。
 このお姿を、みよさまにもお見せしてさしあげたかった…」



 みよさまとは、兄さまのご母堂さま。
 みよさまもきっと、立派に成長したわが子の晴れ姿を見たかったに違いない。

 同じ子を持つ母親として、みよさまの分までその姿を焼きつけるように、母さまは兄さまを見つめ続ける。

 その母さまの瞳が潤んでいる。
 けれど それは溢れてこない。

 戦場へ送りだすわが子に、涙を見せる訳にはいかない。

 立派に働けと激を飛ばし、命惜しむことなかれと諭し、家名を汚してはならぬと戒めなければならない。


 ――――本当は。誰が……誰が愛しいわが子の死を願うでしょう。


 けれど 武士の家庭では、忠義に身を捧げ 戦場で死ぬことが、この上ない美徳だったのです。


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