この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
落ち込む私を励ますかのように、味噌汁をひと口すすると、兄さまは明るくおっしゃる。
「まあ、元気だせ。そんなに落ち込まずとも、きっとすぐ見つかるさ」
私は不思議そうに視線を向ける。
落ち込む私を気遣って、兄さまはそうおっしゃって下さるのでしょうけど。
それでも なぐさめとしか思えない言葉に、つい 眉根を寄せてしまう。
「嘘 おっしゃらないで下さい」
「嘘じゃないさ」
「なぜ、そう言えるのですか?」
すすり終えた椀を膳に戻すと、兄さまは私を見る。
「お前に屋敷の場所を尋ねて、ここまで送ってくれたのだろう。なら明日は、自分から名乗り出るはずだ」
「……えっ?」
「そいつは違反してる。お前と言葉を交わしたのだろう?
『戸外で婦人と言葉を交わしてはならぬ』という、掟を破った」
―――あ!『什の掟』……!
『什』は、九歳を過ぎたら卒業という訳ではない。
六〜九歳までの『遊びの什』を終えると、日新館に入学して今度は『学びの什』に変わる。
そうして掟を根強く身体に叩き込んでゆくのだ。
この『戸外で婦人と……』という 掟には、幼い頃から 男女の区別を弁えなくてはならない、色欲の情を持ってはならないという、そんな藩の方針が含まれているようでした。