この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
 


篠田どののさわやかに響き渡る澄んだ声は、

隊士達の心に浸透し、

自然と皆に落ち着きを取り戻させた。



人生(ジンセイ) (イニシエ)ヨリ (タレ)() ()カラン
 丹心(タンシン)留取(リュウシュ)シテ 汗青(カンセイ)()ラサン』

(昔から死なない人間はいないのであって、どうせ死ぬならば、真心を留めて歴史の上を光り照らしたいものである)



篠田どのにならい、最後の部分を一緒に吟じていた和助は、吟じ終えると、もう一度天守閣を見つめ、すがすがしい顔でニッと笑った。



「手傷が苦しいので、お先に御免!」



言うなり和助は、諸肌を脱ぐと小刀を抜き、ためらいもせずに自分の腹に突き立てそれを引きまわした。


辺りに血が飛び散り、和助は前に突っ伏す。

二、三度痙攣したあと、和助は二度と動かなくなった。



皆はそれを じっと見届ける。





――――和助。





和助は酒と学を好む、剛直(ごうちょく)な奴だった。


奴の父親は、坂下(ばんげ)の農家の(せがれ)から医学を志して殿の御侍医(ごじい)にまで出世した人だった。


そのことで和助は、よく朋輩(ほうばい)から「成り上がり者」と馬鹿にされていた。


和助といえば平然としたもので、



「たしかに俺は成り上がり者だ。だが、お前達はどうだ?

高位高禄の立派な祖先を持っていながら、己は努力もせずに、その上に安穏とあぐらをかいているだけだ。

それは 成り下がりもいいところなんじゃないのか?」



そう言って、いつも笑っていた。



だが 和助はずっと、悔しかったに違いない。

だから誰よりも勉学や武芸を怠らなかったし、つねに武士らしくあろうとしていたのではなかろうか。



そうして会津武士として、和助は見事に果てた。



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